肺を水で洗う検査(気管支肺胞洗浄)
皆さんは、肺の中を水で洗浄する検査をご存じですか?
「しんどそう」「溺れちゃいそう」といった感想を持たれるかもしれません。
正式名は『気管支肺胞洗浄』と言います。
英語ではBAL(Bronchoalveolar lavage)と書き、“バル”とよく呼ばれる検査です。
今回は、『気管支肺胞洗浄(BAL)』についてご紹介したいと思います。
気管支鏡を用いる検査
気管支肺胞洗浄は、以前の記事(呼吸器内科ってどんな科?)でもご紹介した呼吸器科特有の検査である「気管支鏡検査(いわゆる“肺カメラ”)」のなかの検査方法のひとつです。
具体的には、肺の一部に生理食塩水を注入し、その液体を再び回収する検査です。
つまり、“肺の中を水で洗浄する検査”というわけです。
少しでも患者様の身体の負担が軽くなるように、生理食塩水は“人肌”に温めたものを注入します。
どんなときに行うの?
気管支肺胞洗浄は、肺に原因のよく分からない影がある時におこなわれます。
例えば、これまでブログで紹介した病気の中では、加湿器肺(加湿器で起こす肺炎)やレジオネラ肺炎(レジオネラ肺炎)で気管支肺胞洗浄をおこなうことがあります。
検査の目的は、洗浄して回収した液体を解析することです。
液体中の細胞成分を分析したり、がん細胞や細菌・ウイルスが含まれていないかを調べます。
その結果をもとに、今後の治療方針を決定していくのです。
「気管支の枝読み」とは
検査前には、胸部CTで肺のどの部分に病変があるかを詳しく確認し、検査時にどこを水で洗うかをあらかじめ決めておきます。
その際にCT画像を見ながら、どの気管支を通れば病変にたどり着くことが出来るか考えることを「気管支の枝読み」と言います。
気管支は木の枝のように分岐していくことから、「枝読み」と表現するのです。
少しマニアックですが、“気管支の枝読み”だけを扱った専門書があるほど呼吸器科医にとって枝読みは大切なスキルです。
BALは「回収率」がキモ
『気管支肺胞洗浄』は治療法の決定に役立つ有益な検査ですが、検査後に発熱や肺炎を起こすことがあります。
肺の中に水を入れる検査なので、無理もありません。
そこで、少しでも合併症のリスクを減らすために意識することの1つが「回収率」です。
回収率とは、150ml入れた水のうち、どれくらいの水が回収できたかを表す数値です。
例えば、30ml回収できた場合は、30/150ということで回収率は20%となります。
一般的に、気管支肺胞洗浄の回収率は少なくとも30~40%以上であることが望ましいとされています。
回収率を上げることで、合併症のリスクが減るだけでなく、より正確な診断にもつながるため、呼吸器科医は様々な工夫をおこなっています。
正確な診断を目指して
例えば、病変が広い場合は、その中でも回収率が最も期待できそうな肺の部位を選択します。
また、気管支鏡検査の介助者の水を注入したり回収するスピード(力の入れ具合)も重要であるため、介助者との“あうんの呼吸“も大切です。
このように、少しでも正確な診断・適切な治療に近づけるように工夫し、努力をしています。
そのため、高い回収率の時、実は呼吸器科医は少しだけテンションが上がります。
きっとマスクの中では満足気にしていることでしょう。
今回は『気管支肺胞洗浄』をご紹介しました。
肺の中を水で洗浄する『気管支肺胞洗浄』についてご理解いただけましたでしょうか?
原因のわからない肺の影があるときに、気管支肺胞洗浄は診断への突破口となる大切な検査法です。
このブログを通して、有名な胃カメラだけでなく、気管支鏡検査(肺カメラ)という存在も知っていただければ気管支鏡専門医として嬉しいです。
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長引く咳・息切れ・喘息などでお悩みの方は、東広島市西条町助実の呼吸器専門クリニック『西条すこやか内科』までお気軽にご相談ください。
西条すこやか内科
院長 奥本 穣(呼吸器専門医・気管支鏡専門医)