肺非結核性抗酸菌症(肺MAC症)
皆様は『肺非結核性抗酸菌症』という病気をご存じでしょうか?
肺非結核性抗酸菌症という病気は、結核菌の親戚である「非結核性抗酸菌」が起こす慢性の呼吸器感染症です。
肺非結核性抗酸菌症を起こす非結核性抗酸菌は何種類もいますが、なかでもMycobacterium aviumとMycobacterium intracellulareの2つの菌が約9割を占めています。
これら2つの菌を合わせて、Mycobacterium avium complex(MAC)と呼ぶことから、肺非結核性抗酸菌症のことを『肺MAC症』と言うこともあります。
肺非結核性抗酸菌症の特徴
まず、肺非結核性抗酸菌症の5つの特徴をまとめます。
- 近年増加している病気
- ヒトからヒトには感染しない
- 症状は、咳・痰・血痰が中心
- 数年~10年以上かけて、ゆっくりと進行する
- 内服治療をおこなうが、完治しにくい
患者数は年々増加
肺非結核性抗酸菌症は世界的に増加しており、日本では毎年8000人の方が新たに発症しているとされています。
日本での患者数も年々増加しており、今後もますます増加していくことが予想されている呼吸器の病気です。
実は、非結核性抗酸菌は、水まわりや土の中など私達の身近な環境に存在しています。
特に、浴室やシャワーヘッドに多いとされています。
そのため、私達は普段の生活で非結核性抗酸菌を日常的に吸い込んでいます。
つまり「非結核性抗酸菌が肺に定着し、感染を起こすことが問題」なのです。
なお、肺非結核性抗酸菌症は結核とは違い、“ヒトからヒトには感染しない病気”ですので、ご家族などへの感染を心配する必要はありません。
中高年のやせた女性に多い
この病気は、中高年のやせ型の女性に多いです。
台所や浴室などの水まわりで家事をする機会が多いのが理由という意見もありますが、現在のところ明らかな理由は分かっていません。
「長引く咳」で悩んでいませんか?
症状は、咳・痰・血痰が中心です。
ただし無症状の方も多く、健康診断のレントゲンで初めて指摘されることも少なくありません。
数年~10年以上かけて、ゆっくりと進行することが多く、病状が進行すると体重減少・息切れなどを起こします。
日本では現在年間2000人以上の方がこの病気で命を落とされています(近年、肺結核で亡くなる方の人数も追い抜きました)。
レントゲンでは発見が難しいことも
診断は、痰の検査と画像検査でおこなうことが多いです。
ただし、軽症の場合は病変が小さいため、胸部レントゲンでは発見が難しいこともよくあります。
当院では、CT検査も可能ですので、小さな病変も発見することができます。
また、無症状のため痰の検査が難しい場合は、血液検査で「MAC抗体」という血液中の抗体を調べて、診断の参考にすることもあります。
相談しながら治療方針を決めましょう
治療は、抗結核薬を含む複数の内服薬による治療が基本となります。
具体的には、リファンピシン・エタンブトール・クラリスロマイシンの3剤を用いて治療をおこなうことが多いです。
ただし、治療効果はそれほど高くなく、完治までは難しいことも多いです。
また治療期間も1年以上の長期となるため、薬剤による副作用が問題となることも少なくありません。
そのため、ご高齢の方や症状が軽い方では、治療をせず経過観察するケースもよくあります。
当院では、患者様の症状・年齢・全身状態などから総合的に判断して治療すべきかどうかをよく相談しながら決めていきたいと考えています。
定期的な掃除が予防に有効
現状ではこの病気の完全な予防策はありませんが、浴室やシャワーヘッドといった非結核性抗酸菌が多く存在する箇所を定期的に掃除することは有効とされています。
また、十分な睡眠や規則正しい生活も免疫力を上げるため、予防に有効です。
特にリスクの高い中高年の女性の方には、可能な範囲内で構いませんので予防をしてみることをお勧め致します。
今回は、日本で増加している呼吸器の病気『肺非結核性抗酸菌症(肺MAC症)』を取り上げました。
長引く咳・痰で悩んでおられる方(特に女性)は、肺非結核性抗酸菌症の可能性があります。
そうした症状がございましたら、まずは呼吸器専門クリニック『西条すこやか内科』までお気軽にご相談ください。
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長引く咳・息切れ・喘息などでお悩みの方は、東広島市西条町助実の呼吸器専門クリニック『西条すこやか内科』までお気軽にご相談ください。
西条すこやか内科
院長 奥本 穣(呼吸器専門医・総合内科専門医)