長引く咳の原因のひとつ(逆流性食道炎)
今回のテーマは『逆流性食道炎』です。
逆流性食道炎の患者様は多く、日本人の10人に1人とも言われています(実は僕自身もそのひとりです)。
なぜ今回のテーマに逆流性食道炎を選んだかというと、“逆流性食道炎は長引く咳の原因になるから”です。
この「逆流性食道炎による咳」は、呼吸器内科の外来ではかなりの頻度で遭遇します。
逆流性食道炎とは
逆流性食道炎とは、「胃酸が食道に逆流し、食道に炎症を起こす病気」です。
食道と胃のつなぎ目には下部食道括約筋という筋肉があり、胃酸が逆流しないように働いています。
しかし、この下部食道括約筋が緩んでしまうと胃酸が逆流し、食道が炎症を起こしてしまいます。
長引く咳の原因となることも
逆流性食道炎は、胸やけ・胃もたれ・吐き気・ゲップなどの症状が代表的です。
胸痛を起こすこともあり、「心筋梗塞などの心臓の病気ではないか?」と心配し救急要請をされるケースもあります。
僕が逆流性食道炎を発症した時も夜寝られないほどの胸痛が数日間続き、耐えきれなくなって病院に駆け込んで胃カメラを受けた覚えがあります。「これほど痛い胸痛であれば救急車を呼ぶのも無理はない」と身をもって学びました。
そして、冒頭でもご紹介したように「長引く咳」の原因にもなります。
逆流した胃液が刺激となり咳が出てしまうのです。
そして咳によって腹圧が上がり胃液が逆流することで、さらに咳が悪化するという、まさに”悪循環”に陥ってしまいます。
逆流性食道炎と咳喘息
逆流性食道炎は「咳喘息」という病気を合併しやすいことが知られています。
咳喘息は、”夜間を中心にコンコンと咳が出る病気”です。
夜間の横になった時間帯に咳が出やすいわけですから、胃液は逆流しやすくなってしまいます。
そのため、咳がなかなか治らず長引いてしまうのです。
逆流性食道炎の原因
- 食べ過ぎ
- 脂っこいもの・アルコール・炭酸飲料
- 食後にすぐ横になる(胃酸は食後に最も分泌される)
- 肥満や妊娠(腹圧が上がり胃を圧迫するため、胃酸が逆流しやすくなる)
- 猫背(前かがみでは胃が圧迫されてしまう)
- 薬剤
- 加齢
- 喫煙中
なかでも“暴飲暴食”と言われるような食生活が逆流性食道炎と大きく関係しています。
つまり、“ビールをたくさん飲みながら焼肉を食べ、シメはラーメン!”といった食事は逆流性食道炎にとって最大のリスクなのです(僕自身もその生活を繰り返して発症してしまったので、皆様もお気を付けください)。
また意外と見過ごされがちなのが、「薬剤」が原因となっているケースです。
例えば、カルシウム拮抗薬という降圧薬として最も使用される種類の薬剤が原因となることがあるため、高血圧の治療を始めてから胸やけなどが増えたと感じるケースは要注意です。
あと猫背ではない方でも、スマートフォンやパソコンを使用するときに背中が丸くなってしまうという方も胃が圧迫されやすいため注意してください。
逆流性食道炎の治療
胃酸を抑える薬と生活習慣の改善が中心となります。
薬物療法
薬物療法ではPPI(プロトンポンプ阻害薬)とP-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)が中心となります。これらの薬剤を症状に応じて内服していただきます。
生活習慣の改善
- 暴飲暴食を控える
- 食後2時間は横にならないようにする
- 肥満の方はダイエット
- 寝る時は枕を使って頭を高くして仰向けで寝る(横向きで寝る時は左を下にして寝る)
バレット食道とは
逆流性食道炎の治療をおこなわず、胃液の逆流を繰り返し起こしていると、食道の粘膜が変化してしまいます。
その変化した粘膜を「バレット食道」と呼びます。
このバレット食道の恐ろしい点は、食道がんのリスクになるという点です。
食道がんの予防という意味でも、逆流性食道炎は早期治療が望ましい病気です。
”咳”の診療は奥深いです
色々と長くなってしまいましたが、僕がこの記事を通して最も伝えたかったのは「逆流性食道炎は長引く咳の原因になる」ということです。
逆流性食道炎で咳を起こすことはなかなかイメージしにくいかもしれません。
しかし、逆流性食道炎による咳で受診される方はかなり多いです。
逆流性食道炎をはじめとして長引く咳の原因は多種多様です。
一見、呼吸器とは関係がないような病気でも咳を引き起こすことがあります。
「たかが咳、されど咳」とはよく言われる言葉ですが、実に“咳”の診療は奥深いです!
今後も呼吸器専門医として、咳をしっかり診療していきたいと思っています。
長引く咳でお悩みの方は呼吸器専門クリニックである『西条すこやか内科』までご相談ください。
関連記事はこちら〉〉 酔って吐いたら血が出た
長引く咳・息切れ・喘息などでお悩みの方は、東広島市西条町助実の呼吸器専門クリニック『西条すこやか内科』までお気軽にご相談ください。
西条すこやか内科
院長 奥本 穣(呼吸器専門医・総合内科専門医)