突然の胸痛・呼吸困難(気胸)
『気胸』は、肺に穴があいて空気が漏れてしまい、肺がしぼんでしまう病気です。
肺の表面の「肺のう胞(ブラ)」が破れ、穴があいてしまうことで起きることが多いです。
僕が患者様に気胸をご説明するときは、肺を“風船”に例えて説明しています。
「風船は穴があくと、しぼんでしまいます。気胸はまさに同じ状態です。」とお伝えすると、イメージしていただけることが多いです。
胸痛・呼吸困難・咳
気胸の代表的な症状は、胸痛・呼吸困難・咳です。
肺がしぼんでしまうと、正常な呼吸が難しくなるため呼吸困難になるのです。
重要なのは、これらの症状が“突然”起きることです。
気胸の患者様の多くが「〇〇をしているときに急に胸が痛くなった」と訴えられます。
実は、そのタイミングこそ肺という“風船”に穴があいた瞬間というワケです。
高身長の若い男性に多い
気胸のなかでも最も頻度の高い『自然気胸』は、背が高く、やせた10~30代の若い男性に多い病気です。
芸能人でも佐藤健さんや相葉雅紀さんなどが発症された病気で、通称“イケメン病”と呼ばれることもあります。
気胸のリスクとしては「喫煙」がよく知られています。
ある報告によると、喫煙は気胸が起きるリスクを男性で22倍、女性でも9倍高くさせると言われています。
また気胸は、後述する手術をおこなわなかった場合、30~50%が再発する病気です。
少しでも再発を防ぐため、喫煙中の気胸の患者様には“禁煙の重要性”を十分に説明することが大切となります。
通常はレントゲンで診断
身体所見では、以前の記事(聴診器で何を聴いてるの?)でもお伝えしたように、肺の外に漏れた空気が邪魔をして、本来聴こえるはずの呼吸音が聴こえなくなってしまいます。
症状や身体所見から気胸が疑われた場合、胸部レントゲンをおこないます。
基本的に気胸は胸部レントゲンで診断が可能です(ただし、ごく軽度の気胸では、レントゲンで異常が指摘できず、CTで初めて指摘されることもあります)。
気胸の治療法
治療法は、大きく分けて安静・胸腔ドレナージ・手術の3つになります。
「気胸の重症度」や「初発か再発か」などから治療法を選択します。
軽度の場合
軽度の気胸なら、安静にして経過観察することが多いです。
中等度以上の場合
中等度以上であれば、入院をして胸腔ドレナージという処置をおこないます。
脇腹からチューブを挿入し、肺の外に漏れてしまった空気を抜くのです。
大半の方は、空気を抜いた瞬間に肺が膨らみ、あっという間に呼吸が楽になります。
肺にあいた穴からの空気漏れが確実になくなるまで、少なくとも数日はチューブを入れたまま入院で経過をみます。
そして、空気漏れがなくなった後にチューブを抜いて退院となります。
再発時や胸腔ドレナージで治らない場合
一般的に、気胸が再発した場合や前述の胸腔ドレナージをおこなっても空気漏れが止まらない場合は手術となります。
手術では気胸の原因である、肺の表面の穴があいている「肺のう胞」を切除します。
報告によってさまざまですが、術後の再発率は5%程度まで低下すると言われています(なお、手術をしなかった場合は、再発率は30~50%です)。
初発では手術は行わないことが多い
基本的に初発の気胸の場合、手術はおこなわないことが多いです。
ただし、前述のように気胸は再発率の高い病気のため、将来的に受験を控えている学生の方などは初発の場合でも手術を希望される場合もあります。
そのため、患者様ともよく相談し、治療方針を決めていきます。
緊張性気胸とは
自然気胸は一般的に予後の良い病気ですが、注意しなければいけないのが『緊張性気胸』と呼ばれる状態です。
肺の外に大量の空気が漏れて、空気が肺や心臓・血管を圧迫し、呼吸状態の悪化だけでなく血圧低下も引き起こします。
命に関わることもある怖い状態です。
忘れられない緊張性気胸の1例
僕は『緊張性気胸』で忘れられない思い出があります。
その日の当直は、珍しく呼吸器内科の上司と2人で当直をしていました。
様々な病気の患者様が来院しても専門的な対応がすぐできるように、複数の医師で当直をする場合、診療科の異なる医師同士が組むことが一般的です。
しかし、その日は呼吸器内科医2人が当直するという非常に珍しい当直だったのです。
その日、呼吸困難を起こした男性が救急搬送されてきました。
病院に到着したときには、ショック状態で呼吸もかなり弱くなっていました。
救急隊の情報から事前に緊張性気胸が疑われたため、病院到着後すぐにレントゲンを撮影しました。
レントゲンで右肺が完全にしぼんでいることを確認し、緊張性気胸と診断しました。
すぐさま、上司が気道にチューブを挿入(気管挿管)し、気道を確保します。
気管挿管と並行して、僕は胸腔ドレナージをおこないます。
間もなくして患者様の状態は改善しました。
「2人の呼吸器内科医による当直は、“何かの運命”だったのかもしれない」と上司と話したことを今でも覚えています。
月経随伴性気胸とは
また、特殊な気胸として『月経随伴性気胸』があります。
月経随伴性気胸は、子宮内膜組織が横隔膜や肺などに生着・増殖し、月経時に気胸を起こす病気です。
前述のように、気胸は男性に多い病気なので、女性の気胸では月経随伴性気胸の可能性を頭の片隅に置いておく必要があります(女性の気胸の5%程度を月経随伴性気胸が占めると言われています)。
特に、気胸を繰り返しているケースや右肺の気胸(月経随伴性気胸は9割以上が右肺です)では、積極的に疑う必要があります。
飛行機やダイビングについて
最後に、気胸を起こした患者様からときどき尋ねられる飛行機についてです。
明確な基準はありませんが、気胸を起こした場合、治癒して少なくとも3週間経過するまでは飛行機には乗らないことをお勧めします。
また、気胸を1度でも起こしたことのある方は、スキューバダイビングやスカイダイビングは避けてください(仮に手術をした場合でも避けたほうが無難です)。
特にスキューバダイビングは命の危険性が非常に高いので、絶対に避けてください。
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長引く咳・息切れ・喘息などでお悩みの方は、東広島市西条町助実の呼吸器専門クリニック『西条すこやか内科』までお気軽にご相談ください。
西条すこやか内科
院長 奥本 穣(呼吸器専門医・総合内科専門医)