聴診器で何を聴いてるの?
呼吸器内科医にとって聴診器は必需品です。
今回は、「その聴診器で医師はいったい何を聴いているのか」をご説明しようと思います。
簡単にいうと、聴診器では「心音」と「肺音」を聴いています。
心音はいわゆる“ドックンドックン”という心臓の弁が閉まるときに生じる音です。
今回のテーマは「肺音」です
今回は、僕が呼吸器内科医ということもあり、「肺音」を取り上げてみようと思います。
肺音は「呼吸音」と「副雑音」に分けられます。
呼吸音とは
呼吸音は「気道のなかにしっかりと空気が取り込まれていることを示す音」です。
つまり、呼吸音が弱かったり、全く聴こえないときが異常となります。
例えば、気胸や胸水がある場合です。
「気胸」は肺に穴が開き、空気が肺の外に漏れて肺がしぼんでしまう病気です。
「胸水」は胸に水が溜まった状態のことで、その水で肺が圧迫されてしぼんでしまいます。
つまり、空気や水が邪魔をして、本来聴こえるはずの呼吸音が聴こえなくなってしまうのです。
そのため、呼吸音に異常がある時は、気胸や胸水を疑ってレントゲンなどの画像検査を行います。
副雑音とは
副雑音は「断続性ラ音」と「連続性ラ音」に分けられます。
① 断続性ラ音
断続性ラ音は、「肺胞」に病変があるときに聴取されます。
断続性ラ音には「捻髪音」と「水泡音」があります。
- 捻髪音
息を吸った時に聴こえる「パチパチ」という高調で細かな音です。
特に背中側で聴こえることが多いです。
この音が聴こえた場合は、間質性肺炎の可能性が高いです。
間質性肺炎とは何らかの原因で肺が硬くなる病気です。
硬くなった肺を空気が無理矢理に広げようとするため、パチパチと音がするのです。
重要なのは、レントゲンでは一見正常に見える初期の間質性肺炎でも、この捻髪音は聴こえることが多いということです。
つまり、肺の聴診を行うことで、画像では分からない初期の間質性肺炎を早期発見できる可能性があるのです。
- 水泡音
息を吸った時に聴こえる「ボコボコ」という低調で粗い音です。
細菌性肺炎(いわゆる一般的な肺炎)や肺水腫(心不全)のときに聴こえます。
水浸しになった肺胞を空気が広げようとするため、ボコボコと音がするのです。
呼吸困難のある患者様で、この水泡音を聴取した場合は、肺炎や心不全を疑ってレントゲンを撮ります。
② 連続性ラ音
連続性ラ音は、「気道」に病変があるときに聴取されます。
連続性ラ音には「ウィーズ」と「ロンカイ」があります。
- ウィーズ
息を吐いたときに聴こえる「ヒューヒュー」という笛のような高調音です。
アレルギーや炎症で、“細い”気管支が狭窄することで生じる音です。
気管支喘息発作やCOPDの急性増悪などで聴取します。
また肺水腫(心不全)でも聴こえることがあり、聴診であたかも喘息のような音が聴こえることから、“心臓喘息”と呼ばれることもあります。
- ロンカイ
いびきのような「グーグー」という低調音です。
“太い”気管支が痰などの気道分泌物によって狭窄することで生じる音です。
痰が原因の場合は、咳をすると音が変化したり消えたりすることが特徴です。
つまり、ウィーズとロンカイでは狭窄する気管支の場所が違うのです。
細い部分を空気が通るとヒューヒューと高い音が出て、太い部分では低い音が出ます。
口笛で高い音を出すためには口先をすぼめることを想像していただけると理解しやすいかと思います。
「捻髪音」と「ウィーズ」が重要
個人的に肺の聴診で重要だと思うのは、捻髪音とウィーズです。
先ほども書きましたが、捻髪音は間質性肺炎の早期発見に大いに役立ちます。
間質性肺炎は治りにくい病気ですので、早期発見が非常に重要となります。
また、ウィーズは気管支喘息を疑ったときに非常に大切な聴診所見です。
呼吸器内科医は、思いっきり息を吐いた際にウィーズが聴こえるかどうかを確認することが多いです。
僕は「ローソクの火を消すイメージで、フーっと息を思いっきり吐いてください」とお願いしています。
色々な可能性を考えながら聴診
今回は少し専門的な内容になってしまいました。
出来るだけ皆様にも分かりやすいように書いたつもりではあるのですが、分かりにくいようでしたら申し訳ございません。
この記事を通して、我々医師は単に儀式的に聴診しているのではなく、色々な病気の可能性を考えながら真剣に聴診しているということを理解していただけたら嬉しいです。
関連記事はこちら〉〉 呼吸器内科ってどんな科?(前編)
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西条すこやか内科
院長 奥本 穣(呼吸器専門医・総合内科専門医)