胸に水が溜まる(胸水)
呼吸器内科医は、「胸に水が溜まる」という表現をよく使います。
“胸に水が溜まる”とは、正確に言うと「胸水」が溜まった状態のことです。
胸水とは、胸腔と呼ばれる空間に溜まった水です。
その水で肺は圧迫され、しぼんでしまうため、息切れや呼吸困難感が生じます。
そこで、今回は「胸水」をテーマにお伝えしようと思います。
胸水が溜まる理由
そもそも、なぜ胸水は溜まるのでしょうか?
胸水は「滲出性(しんしゅつせい)」と「漏出性(ろうしゅつせい)」の2つに大きく分けられます。
2つの違いは「炎症があるかどうか」です。
滲出性胸水
炎症があるところに水は溜まります。
例えば、膝が炎症を起こすと、膝に水が溜まりますよね。
胸も同じで、炎症があると胸水が溜まってしまうのです。
その場合の胸水を「滲出性胸水」と呼びます。
例えば、肺炎・胸膜炎・肺がん・悪性胸膜中皮腫による胸水が代表的です。
漏出性胸水
一方、炎症がなくても胸水が溜まることがあります。
例えば、心不全(肺水腫)の場合です。
肺水腫とは、読んで字のごとく“肺が水浸し”になる病気です。
つまり、体の水分量が過剰となり、肺が水浸しになってしまうのです。
水浸しになった肺からはジワジワと水が漏れだします。
そういった場合の胸水を「漏出性胸水」と呼びます。
心不全の他にも、肝不全・腎不全・低栄養状態などが原因となります。
呼吸音が聴こえなくなる
聴診では、本来聴こえるはずの呼吸音が弱くなることが有名です。
以前の記事(聴診器で何を聴いてるの?)でもお伝えしたように、肺の周囲に溜まった水が邪魔をするため呼吸音が聴こえなくなってしまうのです。
「滲出性」と「漏出性」の見分け方
それでは「滲出性」と「漏出性」はどのように判断するのでしょうか。
胸水がある全ての患者様で胸水を抜くわけではありません。
多くの場合、身体診察所見や血液検査などから総合的に考えることで、胸水が滲出性か漏出性かどうかは判断可能です。
例えば、滲出性胸水は基本的に片側の胸水が多く、漏出性胸水は両側の胸水が多いことも参考になります。
胸水を抜くこともあります
色々な検査をしても判断が難しい場合や大量の胸水が溜まって呼吸困難を起こしている場合は、胸水を抜いて調べます。
実際に胸水を抜いた場合は、胸水中のタンパクなどの数値を「Lightの基準」というものに照らし合わせて判断します。
胸水を抜くことで、滲出性・漏出性の判断だけでなく、胸水中に「細菌」や「がん細胞」などが存在するかどうかも分かり、適切な治療にもつながるため、胸水検査が必要なケースでは積極的におこないます。
胸水の治療法について
そもそも「滲出性」と「漏出性」をなぜ区別する必要があるかというと治療法が異なるからです。
“炎症が原因”の「滲出性胸水」の場合、炎症を起こしている根本的な原因の治療が必要です。
例えば、肺炎であれば抗菌薬による治療をおこないます。
一方、“炎症が原因ではない”「漏出性胸水」の場合は利尿薬などを使って、体の水分量を減らすことで胸水をコントロールすることが多いです。
今回は、「胸水」の話をしました。
この記事でお伝えしたように胸水が溜まる原因はさまざまです。
また、程度の差こそあれ、胸水が溜まっている患者様は案外多いです。
『西条すこやか内科』は呼吸器専門クリニックとして、胸水の原因を様々な検査や身体所見から総合的に判断し、ひとりひとりの患者様に対して最適な治療をおこなえるよう努めます。
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西条すこやか内科
院長 奥本 穣(呼吸器専門医・総合内科専門医)