胸水中で細菌が増殖(膿胸)
以前の記事(胸に水が溜まる)で胸水についてお伝えしました。今回は、胸水の中でも少し特殊な『膿胸』という病気をテーマにお話ししようと思います。
膿胸とは、読んで字のごとく“胸に膿(うみ)が溜まった状態”です。
膿胸の代表的な症状は、発熱や胸痛です。膿が大量に溜まっている場合は、呼吸困難を引き起こすこともあります。
「肺炎随伴性胸水」と「膿胸」
肺炎に伴って胸水が溜まることを「肺炎随伴性胸水」と呼びます。この肺炎随伴性胸水は、肺炎の20~40%に見られると言われています。
一方、膿のような胸水が溜まる事を「膿胸」と言います。
「肺炎随伴性胸水」と「膿胸」は何が違うのでしょうか?
一般的に、肺炎に対し早期に適切な治療がおこなわれなかった場合、「肺炎随伴性胸水」が「膿胸」に進展すると考えられています。つまり、“肺炎をこじらせた”場合に膿胸を起こす可能性があるのです。
膿胸のリスクが高い方
では、どういった方が膿胸になりやすいのでしょうか?
ご高齢で寝たきりの方や、誤嚥性肺炎を繰り返す方が発症しやすいと言われています。
特に意思疎通が難しい方は、症状を訴えることが難しいため肺炎の診断・治療が遅れ、膿胸まで進展することが多いと考えられています。
膿胸の診断
レントゲンやCTなどの画像検査では、胸水や胸膜肥厚がみられます。
症状や画像検査から膿胸が疑われる場合、胸腔穿刺という処置で胸水を抜いて調べます。その際、胸水を抜いた瞬間に「これは膿胸だ」と確信することがあります。
“膿のような”胸水のため、まず胸水の見た目がドロドロとしています。また何とも言えない悪臭がすることもあります。最終的には胸水検査で、pH低下・糖濃度低下・胸水の中から細菌が検出されることなどから『膿胸』と確定診断します。
膿胸は”早期治療”がポイント
膿胸のポイントは、”早期治療”です。
早期の段階で適切な治療をおこなわないと、『慢性膿胸』と呼ばれる治りにくい状態となってしまうのです。慢性膿胸になると、肺がうまく広がらず、十分な換気が難しくなるため呼吸が苦しくなることもあります。
膿胸の基本的な治療は、「適切な抗菌薬の投与」と「胸腔ドレナージ」です。
胸腔ドレナージとは、胸腔ドレーンと呼ばれるチューブを脇腹から挿入する処置です。そのチューブを通し、体の外に膿(うみ)を排出させるのです。この胸腔ドレナージという処置は、以前の記事(気胸について)でもご紹介したように、気胸という病気に対してもおこないます。
つまり、膿胸ではチューブを通して「胸水(膿)」を排出し、気胸では「空気」を排出するわけです。
隔壁が形成されると大変!
膿胸に対して治療が遅れると、フィブリンによる「隔壁」が形成されるようになります。
簡単にいうと、最初の頃はひとつの部屋に膿がたまっていたのに、部屋の中にどんどん壁が作られていくのです。その結果、複数の部屋に膿が溜まった状態(多房化といいます)になってしまうのです。
複数の部屋に膿が溜まると何が困るのでしょうか?
それは胸腔ドレナージをした部屋はキレイになるけど、別の部屋はキレイにならないからです。当然ながら、全ての部屋に対して何本もチューブを入れるのは現実的ではありません。
「線維素溶解療法」とは
そこで、そういった場合では「線維素溶解療法」を検討します。
線維素溶解療法とは、ウロキナーゼという薬剤を胸腔ドレーンから投与する治療法のことです。ウロキナーゼには、フィブリンによって線維化した隔壁を溶かす作用があります。
つまり、部屋を隔てる壁を壊し、ひとつの部屋にして、一気にキレイにしてしまおうという治療法です。
これらの治療をおこなっても効果が不十分な場合は外科的治療をおこなうこともあります。
よく似た名前の『肺化膿症』
膿胸によく似た名前の病気で『肺化膿症(肺膿瘍)』という病気があります。
肺化膿症は、肺が炎症を起こし、肺組織が破壊され生まれた空洞に膿が溜まる病気です。
膿胸と同じく、誤嚥性肺炎を繰り返している方に起きることが多いです。通常の肺炎とは異なり、抗菌薬を長期間(1ヶ月程度)投与する必要があります。
『膿胸』と『肺化膿症』の違い
では「膿胸」と「肺化膿症」の違いは何でしょうか?
簡単に言うと、「肺の外に膿が溜まるか、肺の中に溜まるかの違い」です。
つまり、肺の外に膿が溜まるのが「膿胸」、肺の中に膿が溜まるのが「肺化膿症」です。
今回は『膿胸』についてお伝えしました。
膿胸は早期治療が大切な病気です。発熱や胸痛が持続する場合は、我慢せずにお気軽に当院までご相談ください。
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西条すこやか内科
院長 奥本 穣(呼吸器専門医・総合内科専門医)